人工授精法
性交渉後の腟内の精子は子宮の入口から分泌される頚管粘液を泳いで子宮腔内へ入ります。このとき精子の数がぐっと減ります。さらに子宮腔内から卵管に入り、卵管内の卵と出会います。この時も精子数がぐっと減ります。
最終的には腟内に射精され、数千匹の精子が卵のまわりに到達できるのは数十匹になると言われています。
人工授精の目的は主に卵管に到達できる精子の数を増やすことにあります。
人工授精(AIH)は正確に言えば子宮腔内精子注入法(IUI)と呼ばれます。
①もとの精子数が少ない、あるいは運動率が悪い、あるいはその両方が悪い(有効)
②原因不明の不妊(有効)
③通常性交で精子が子宮の中に入っていない。例えば頚管粘液が硬く、精子が粘液内で動けない例(有効)
④sexless(有効+必要)
⑤EDで性交ができない(有効+必要)
⑥妻側に性交痛が有り、性交が困難な場合(有効+必要)
等です。
①あらかじめご夫婦の感染症(B型、C型肝炎、梅毒、HIV)の検査(1回採血)が必要です。
②排卵日の近くに来院し、いつ排卵が起こりそうか予測し、人工授精の実施日を決めます。
③人工授精の当日はあらかじめ渡してある容器(ポーター)に自宅で精液を採取していただき、それを奥さんがクリニックに持参します。(ご主人は当日来院する必要はありません。)
④持参した精液はパーコール法という方法で精液の中から動きの良い精子だけを分離する処理を行います。(これにはおよそ40分位の時間が必要です。)
⑤④の方法で処理された精子を細いチューブに入れ子宮腔内に注入します。つまり子宮腔内精子注入法(intrauterine semen insemination)です。
これは1分間程で終わります。その後帰宅し通常の行動ができます。もちろんその後仕事ができます。
※当クリニックでは人工授精は午前中に行われます。精液を持参していただく時間は9:30、10:00、10:30、11:00、11:30です。
①どんな場合に凍結精子の人工授精を行うか?
最近ご主人が遠隔地、場合により海外への単身赴任するカップルが増えています。その間、妊娠するチャンスはかなり少なくなります。排卵日にあわせて夫婦どちらかが移動し性交渉を持つことはかなりの負担です。このようなカップルの場合、ご主人が帰京した時に精子を採取し、それをクリニックに持参していただければ、凍結保存しておくことができます。
これに新鮮精子の人工授精と同じような手順で排卵日に、当日の朝精子を解凍し人工授精が可能です。場合により凍結精子を用いた顕微授精も可能です。
新鮮精子を用いた人工授精の妊娠率は1回あたりの妊娠率はカップルあたりおおむね7~8%位です。カップルあたり20%内外です。
凍結精子による妊娠率はカップルあたり19.4%でしたが症例が多くないので、なお今後の検討が必要です。しかし、精子凍結しないと殆どチャンスがないことと比べると悪い方法ではありません。
6)人工授精は何回までやって、次のステップアップ(体外受精)に移るのが良いか?
人工授精を行う原因は多様です。また精子の状態も良いものから、かなり悪いものまで幅があります。これらを全てひっくるめて、何回位まで人工授精を行ない、妊娠に至らなければARTにステップアップするかとても重要なテーマです。
図 は当クリニックで人工授精を行ない、妊娠が成功した68症例が何回目で妊娠したかの詳細です。
その内訳は1回目で妊娠した人は妊娠した人の47%、2回目では23.5%、3回目では11.8%、4回目で13.2%でした。
妊娠した人は4回目以内で95.6%に達します。それ以降は1.5%と低下します。
このデータから考えると4回目以降の人工授精はあまり妊娠に期待もてないかと思います。
しかし人工授精を行う理由や精子の状況により一概にはこう断定することはできません。